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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)5028号 判決 1982年12月10日

原告

藤木昭一

被告

市川高志

主文

一  被告は、原告藤木昭一に対して金五二〇万二四〇七円及び内金四八五万二四〇七円に対する昭和五六年八月二四日からその支払の済むまで年五分の割合による金員、同藤木光子に対して金四八〇万二四〇七円及び内金四五〇万二四〇七円に対する昭和五六年八月二四日からその支払の済むまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、

一  被告は、原告藤木昭一に対し金一五二七万五九一五円及び内金一四〇二万五九一五円に対する昭和五六年八月二四日から完済まで年五分の割合による金員を、原告藤木光子に対し金一四六七万五九一五円及び内金一三四二万五九一五円に対する前記起算日から完済まで前記の利率の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一  事故の発生

訴外藤木修二は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。

1  発生日時 昭和五六年八月二四日午後四時五五分頃

2  発生場所 斜里郡斜里町字川上一二八番地先道路(以下「本件道路」という)

3  加害車 普通乗用自動車(登録番号札五五ね六二五二号)

4  右運転者 被告

5  被害者 藤木修二(当時加害車に同乗中)

6  事故の態様 被告は加害車を運転して本件道路を斜里方向から清里町方向に向けて進行中、右カーブを曲がる際にハンドルを切り過ぎて加害車を右側道路側溝に突込み転倒させ、同乗していた修二を車外に転落させ、加害車の下敷きにさせた。

7  結果 右転落下敷きのため、修二は肺挫傷の傷害を負い、同日午後五時ころ死亡した。

二  責任原因

被告は本件加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたのであるから、その運行によつて生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

原告らは、本件事故によつて次の損害を被つた。

1  葬儀費用 六〇万円

原告藤木昭一は、本件事故後修二の葬儀を行い、相当額の費用を支出したが、被告に負担させるべき金額としては六〇万円が相当である。

2  逸失利益 三五八五万一八三一円

(一)  修二の年齢、収益等

(1) 年齢 死亡当時一六歳(昭和三九年八月二八日生)

(2) 職業 無職(道立斜里高等学校普通科二学年在学中)

(3) 稼働期間 満一八歳から満六七歳まで四九年間

(4) 収益 年収として、昭和五五年度賃金センサス、男子労働者、学歴計、企業規模計のきまつて支給する現金給与額の年額と、年間賞与等給与額の合計額に、昭和五六年度ベースアツプ分として五パーセントを加算した額に、さらに昭和五七年度ベースアツプ分として五パーセントを加算した額。

(5) 生活費控除 死亡当時、あと四日で満一七歳になるところであつたものであり、近い将来一家の中心的な存在になることが予測されていたから、生活費の控除は四〇パーセントが相当である。

(6) 中間利息控除 ライプニツツ方式による。

3  慰藉料 一一〇〇万円

原告藤木昭一は修二の父、同光子は修二の母であるが、原告らは、本件事故によつて右年齢に至るまで育てあげ、かつ将来を嘱望していた修二を失い、甚大な精神的苦痛を受けた。よつて、原告らの慰藉料は各自五五〇万円、合計一一〇〇万円が相当である。

4  弁護士費用 二五〇万円

原告らは、本件訴訟の追行を原告代理人に委任したが、これに要する弁護士費用の合計のうち、被告に負担させるべき金額は少くとも二五〇万円である。

5  相続

原告らは、前記3の身分関係にあつたので、修二の死亡によつて、修二の前記2の逸失利益による損害賠償請求権を、それぞれ二分の一にあたる一七九二万五九一五円(端数切捨)ずつ相続により承継した。

6  自賠責保険金の控除

原告らは、本件事故について自賠責保険金を各自一〇〇〇万円ずつ(合計二〇〇〇万円)、受領したので、これを原告らの前記損害額に弁済充当した。

四  結論

よつて、本件事故による損害賠償として、自賠法三条に基づき、被告に対し、原告藤木昭一は一五二七万五九一五円および右金員から弁護士費用を除いた一四〇二万五九一五円に対する本件事故の日である昭和五六年八月二四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを、また原告藤木光子は一四六七万五九一五円および右金員から弁護士費用を除いた一三四二万五九一五円に対する前記起算日から完済まで前記の利率による遅延損害金の支払いを求める。

と述べ、更に被告の抗弁に対する認否として、

藤木修二が、祭り見物に行く目的で本件車両の助手席に同乗し被告のスピード運転行為を止めなかつたことは認める。その余は否認する。

藤木修二は、本件事故当時一六歳の高校生で、自動車およびバイク等の免許を有していなかつたものであり、本件事故現場であるゆるいカーブの手前約一キロメートルは直線で、当時交通量も少なかつたからスピードが出ているという認識はもつていたとしても、危険か否かの判断および被告の運転行為に対して注意を与える判断ができなかつたものである。

修二は、真面目な高校生で、将来大学入学を希望し、両親もまた大学へ入学させるつもりであつたもので、いわゆる暴走族の仲間に入つていたものではない。従つて仮に好意同乗による減額をすべきものとしても、慰藉料につき一〇ないし二〇パーセントに止めるべきものである。

と述べた。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は、

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決及び仮執行免脱の宣言を求め、請求の原因に対する認否及び抗弁として、

一  第一項は認める。

二  第二項は認める。

三1  第三項1は、金額について争う。

2  同項2の(一)の(1)乃至(3)の事実および(6)は認め、同(4)・(5)および(二)は争う。

3  同項3は争う。

4  同項4は金額の相当性については争い、その余の事実は認める。

5  同項5は相続の事実について認める。

6  同項6は認める。

四  第四項は争う。

五  藤木修二は、祭り見物に行く目的で被告運転の本件車両に同乗していたものであり、しかも、被告が約一二〇キロメートルのスピードで本件車両を運転する際にも、同人は助手席に乗つていながら、全く被告の運転行為を止めるなどの行為をしておらず、いわば、共同で暴走行為に加担したというべきであるから、すくなくとも、藤木修二には四〇パーセントの過失がある。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  本件事故の存在・態様・結果、当事者間の関係、被告の責任原因については当事者間に争いがないので、被告は藤木修二及び原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償しなければならない。

ここで被告は、好意同乗及び暴走行為加担を理由として損害額の減額を主張するのでこの点について検討するに、成立にいずれも争いのない乙第一号証の一ないし五によれば、修二が本件事故当日、加害車に同乗するに至つたのは同人が被告方に架電し、下校時に斜里駅から自宅まで被告の自動車(加害車)で送つてくれるよう求めて被告がこれに応じたためであること、加害車が本件道路を通行していたのは、修二が加害車に同乗した後、友人である女子高校生二名が同日清里町の祭り見物に出かける予定であることを知つてこれに同行するつもりで同女らをも同乗させて清里町へ行つてくれるよう求め、被告はこれを承諾して助手席の修二の指示するままに加害車を走らせ、前記女子高校生二名をそれぞれ乗車させた後、同町方面へ向けて進行していたものであること、本件事故が発生したのは被告が時速約一三〇キロメートルの猛速度でカーブを曲ろうとして曲がり切れなかつたためであるが、それまでにも被告は時速一〇〇キロメートル以上の高速度で進行していたのに加害車内では誰れもこれを被告に注意しなかつたという事実が認められる。

右事実によれば、修二が本件当時加害車に同乗していたことは曲型的な好意同乗の場合に該当するから、公平の見地から過失相殺の規定を類推適用してその損害額の一部を相殺すべく、その割合については、前述した通り、本件事故当時の加害車の運行について修二が主導権を有していた度合が相当に大きく寧ろ共同運行共用者に近いような立場であつたと見られること及び被告の時速約一三〇キロメートルという無謀運転につき助手席にいてこれを放置していた(原告主張の通り修二が運転免許を有していなかつたとしても、時速一三〇キロメートルという速度で進行することが甚だ危険なものであることは同乗者としてた易く認識し得た筈である。)という事情を併せ考慮して三〇パーセントとするのが相当である。

二  進んで原告らの損害額を検討する。

1  葬儀費用 五〇万円

原告昭一が修二の葬儀を行なつたことは同原告本人尋問の結果によつて明らかであり、相当額の支出を要したであろうことも当然考えられるところであるが、ここでは修二が死亡当時ほぼ一七歳の高校生であつた(後述)ことを考慮して、五〇万円をもつて本件事故と相当因果関係を有する原告昭一の損害と認める。

2  逸失利益 合計 三一四三万五四五〇円

修二が昭和三九年八月二八日生れであつたことは当事者間に争いがないから、修二は本件事故当時満一六歳一一月二六日でほぼ満一七歳とみてよい。修二が当時道立斜里高校普通科二年に在学中であつたことも当事者間に争いがないから、同人の逸失利益を計算するに当つては、本件事故の日から遅延損害金を付する都合上本件事故のあつた昭和五六年度の賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者平均賃金は三六三万三四〇〇円)を用い、また修二の死亡当時の立場から生活費控除割合は五〇パーセントとし、ライプニツツ方式(係数一七・三〇三六)によつて中間利息を控除して六七歳までの逸失利益を算出すると三一四三万五四五〇円(円未満切捨、以下同じ)が得られる。原告両名は修二の父母としてそれぞれその二分の一である一五七一万七七二五円宛を相続によつて取得したことになる。

3  慰藉料 合計 一〇〇〇万円

原告両名の修二死亡による慰藉料としては、各五〇〇万円をもつて相当と認める。

4  相殺後の小計 合計 九三五万四八一四円

右1ないし3を合計すると、原告昭一について二一二一万七七二五円、同光子について二〇七一万七七二五円となるが、前項で述べた通りその三〇パーセントをそれぞれ控除すべく、その残額は原告昭一につき一四八五万二四〇七円、同光子について一四五〇万二四〇七円である。更に原告両名が自賠責保険からそれぞれ一〇〇〇万円の填補を受けたことは当事者間に争いがないので、これをも控除すると、その残額は原告昭一が四八五万二四〇七円、同光子が四五〇万二四〇七円となる。

5  弁護士費用 合計 六五万円

原告らが本件訴訟の提起・追行を弁護士富樫基彦に委任したことは本件記録によつて明らかであるが、弁護士費用としては前記損害金残額、本件訴訟の難易その他本件口頭弁論に現われた一切の事情を勘案して、原告昭一につき三五万円、同光子について三〇万円をもつて本件事故と相当因果関係を有する原告らの損害と認める。

三  以上の事実及び判断によれば、原告らの本訴請求は結局主文第一項掲記の限度で理由があることに帰するからこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言(その免脱についてはこれを付するのを不相当と認めるので、採用しない。)については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決した次第である。

(裁判官 西野喜一)

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